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倉品 淳子(俳優・演出家)
劇団山の手事情社所属。主な作品は『道成寺』(東京公演)、『オイディプス王』(ルーマニア/シビウ国際演劇祭)など。2004年から東京、神奈川、福岡などで演出家として活動。シニア、障がいのある人など、バラエティにとんだ人たちと演劇を作っている。2007 年よりえずこシアターを指導。桜美林大学非常勤講師。
アーティスト プロフィール
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「えずこホール開館から2カ月後の1996年12月に旗揚げした「えずこシアター(以下、シアター)」は、男女問わず幅広い年代が参加する仙南圏域の住民劇団です。97年から毎年えずこホールにて公演を中心に活動を行い、2007年からは劇団「山の手事情社」から倉品淳子さんを演出に迎え、毎年夏に本公演を開催しています。シアターと倉品さんがタッグを組んで、今年でちょうど10年。えずこホールの20周年とも重なり、両者、いえ、三者にとってのアニバーサリー・イヤーを迎えました。
10年前の最初の公演では、ワークショップを行って作ったオリジナル劇を十周年事業『十年音泉』で発表。その後は、モチーフや原作を元にした構成演劇を行ってきましたが、今年、再びオリジナル劇に挑戦しました。「原点回帰というか、最初に戻って改めてこの10年何をやってきたのかを考えたかった」と倉品さん。「成長という言い方はおかしいかもしれませんが……今回、10年間やってきただけのことはあったなと感慨深かったですね」。本作『パンとギターとこけしとわたし』は、シアターメンバーが3チームに分かれ、仙南地域にある有名なパン屋、名門と名高い大河原商業高校ギター部、こけしの産地・遠刈田温泉の職人さんを訪れてインタビューを行い、その話をベースに作り上げられました。タイトルが表すように「パン」「ギター」「こけし」「わたし」という、4パートからなる舞台。最初の3パートにはサブタイトルがつけられ、それぞれ数本のショートストーリーで構成されます。
最初の『パンレボリューション2016』では男女混じって、パンのファッションショー、パンを題材に俳句を読む女性たち、擬人化したパンを愛でる女性店主など。続く『今が青春アルペジオ』ではベテラン3人と若手3人の女優6人による一発コント的な小芝居、ギターの音色をBGMにセリフの朗読など。「こけし」パートのサブタイトルは『ふぞろいのこけしたち』。こちらも女性6人で、親戚の集いや主婦の井戸端会議のような場面を介して描かれる小さなコミュニティの世界や女性の葛藤など。そして、最後のパート「わたし」では役者全員が集まり、アドリブに近い形でそれぞれの「わたし」を演じていきました。
これといったあらすじがあるわけでなく、各パートで様々な場面(ストーリー?)がハイスピードで展開していきます。見る者を飽きさせないテンポのよさに加え、芸達者な役者たち。じわじわした面白さが次から次にと続き、それに伴いに厚みがどんどん膨らんでいくような秀作で、およそ2時間の上演時間が、あっという間に感じられました。
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パンチーム
ギターチーム
こけしチーム
全員参加のアドリブで作る「わたし」とは?
10年の積み重ねを経ての原点回帰。再び、オリジナル劇に挑戦
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8月27日の昼夜、28日の夜と公演は3回あり、いずれも600席のホールを埋めるほどの集客でした。上演中、ユニークな場面では常に笑いが起こり、いかに観客も楽しんでいたかが伺えます。失礼を承知で書くならば、ふだんは学生や社会人の人たちが集まる住民劇団とは思えないほどクオリティの高い作品でした。倉品さんも「アマチュアのプロというか、プロのアマチュアというか、メンバーたちはそういう部分に到達してきてるんじゃないかなと思いますね。舞台上に立つことにだいぶ慣れてきていますし、人目にさらされることもいい意味で慣れてきているんじゃないかと感じました」と役者たちを称えます。
役者たちの演技力が高くなったことも大きな要因といえますが、今回の舞台の成功には、見せ方の工夫が不可欠でした。10年前の『十年音泉』は、面白いものは全部取り入れながら作っていったそうですが、本作の場合は、たとえ面白いシーンが出来たとしても本編に入れこむ必要性がなければ、外すことも厭わなかったといいます。「やはりコンセプトや流れを大事にしたほうが見世物としてはまとまるということが、今回で証明されましたね(笑)。住民劇団の場合、演じる側と見る側の両方に満足感が必要で、そのバランスをとることが大切なんです」と倉品さん。また、コンセプトについてこうも語ります。「今年はどこかの時点でレビュー(※)にしようと思いました。だから、役者たちにも『面白くしよう、面白くしなきゃだめだよ』って言い続けて。作品に筋がないから面白くなければ全然使いものにならないし、時間の無駄になるからカタルシスも生まれない。『ずっと面白いシーンが続くようなお芝居を作るよ』って、すごくプレッシャーを与えましたね」。
※レビュー…歌と踊りに時事風刺劇を組み合わせた舞台芸能
演じる側と見る側の両者に必要なもの
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10年間携わってきたえずこホールについて、「本当に不思議なホールですね」と倉品さん。「だって、最寄り駅から歩いて30分もかかるところに、うちのシアターからも仙台から参加している人が4~5人もいるんです。来るだけでも大変な場所にあるのに毎年20数人も出演者がいて(※今年は21人)、お客さんも毎回600人近く来ていただける。こんなところって他にないですよね。本当に、芸術が人間に必要なんだなってことを気付かせてくれるホールです。近くに文化を享受できるところが他にあまりないからという見方もできますが、実際、仙台からもどんどん人が集まってくるということは、ここにしかない、ここでしかない魅力があると思うんですね。そこに関わらせてもらっていることにすごく誇りを持ちますし、嬉しいですね。国内でも海外でも、いろんなところで自慢しています」と愛情たっぷりのご様子。
ともに歩んできたシアターに対しては、「10年間をふまえつつ、今回つきあってくれてありがとうっていう気持ちがすごくあります。無茶ぶりしたりとか、急に変更したりとか、カットとか、私の無茶苦茶な演出に文句も言わず、辞める事もなく信じてついてきてくれたことに対してありがとうはもちろんのこと、これから先、私たちどういったものを作って行こうかということがやっと考えられるようになってきたね、という気持ちです」。しかし、ここで満足しないのが倉品さんです。メンバーを叱咤激励すべく、観客の皆さんへのメッセージもくださいました。「とても強いお願いなのですが、彼らを甘やかさないでほしい。何度も来ていただいているお客さんやメンバーのお友達だと、何もやってないのに大ウケしたり、そんなに面白くなくても笑ったりされることがあるんです。でもそれでは内輪ウケになって芸術が伸びないんですよ。気持ちは分かりますし本当にありがたいのですが、どうか厳しく、本当に面白いのかという目線で見ていただきたいです。おこがましいですね……でも、芸術を育てるのはお客さんなので」。
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公演後の倉品さんにお話を伺う
えずこホールとの10年、シアターとの10年、そして来年へ
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来年、シアターは20回目の記念公演を迎えます。観客の見やすさをふまえ、次回はまた作品をモチーフにした構成演劇したいと思っているそうですが、具体的なプランはこれから。「全員が作品を持ち寄り、その中から選ばれた3作品をチーム別に分かれて練り上げ、最終的に1作品に絞り込むということを以前やったのですが、これをもう一度やろうかなとも考えています。なにせ20回記念公演なんで、メンバーたちも何かどかんとやりたいみたいですよ」と笑う倉品さんの眼には、強い輝きがともなっていました。
(文:木下貴子)