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山田 うん(振付家・ダンサー)
振付家・ダンサー。器械体操、バレエ、舞踏など を学び1996 年より作品を発表。2000 年横浜ダンスコレクションにおいて「若手振付家のための在日フランス大使館賞」を受賞し渡仏。2002年ダンスカンパニー「Co. 山田うん」を設立。第8 回日本ダンスフォーラム大賞受賞。平成26 年度東アジア文化交流使。芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
アーティスト プロフィール
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「最高の舞台を作ろうと毎回挑むんですが、良かった部分と悪かった部分……毎回必ず反省と発見があります。今日もそういう日でした」――7月8日に開催された「Co. 山田うん」によるダンス公演『結婚』『春の祭典』を終え、カンパニー主宰・山田うんさんは何かを納得するかのように小さくうなずきながら、この日の感想を率直に語ってくれました。
本公演は『結婚』と『春の祭典』の豪華2本立て。先に上演された『結婚』は、ロシア音楽界の巨匠、イーゴリ・ストラヴィンスキーによる群舞バレエ曲『結婚』(1923年) に山田さんが新振付して男女のデュオとなり、世界の劇場で喝采をあびた話題作です。
原作『結婚』で描かれるのはロシアの少数民族の婚礼ですが、Co.山田うん版では子孫を残すための結婚という制度の不条理さを悲惨なことと捉えるのではなく、人間という存在のおかしみを表現したと山田さんはいいます。ロシアのパフォーマンス集団「ポクロフスキー・アンサンブル」による、エキゾチックなカンタータの調べに乗って踊る川合ロンと山田うん、2人のダンサー。時にシンクロし、時にかけあい、時に快楽的に、時に攻撃的に、時に激しく、時に静謐に、時にコミカルに……。花婿と花嫁、2人の間には人間的な男女間のなまめかしさというよりも、動物の求愛行動にも似た本能的な生と性が感じられます。人間のおかしみや醜さが表現される一方で、観る者にはあたかも「生命の儀式」が目前で繰り広げられているかのような神秘的な錯覚も与えられたのではないでしょうか。
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ダンス公演「結婚」より
ダンス公演「結婚」より
ダンス公演「結婚」より
男女デュオで人間という存在のおかしみを表現
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興奮さめやらぬまま、『春の祭典』が幕を開けました。同じくストラヴィンスキーによる歴史的名曲『春の祭典』(1913)を山田さんが新振付したCo.山田うん版『春の祭典』で、3年前の初演以来、国内外の10劇場で上演され各地での熱狂的な支持と再演数の多さで話題を呼んでいるカンパニーの人気作品です。
『春の祭典』は物語が先に出来たバレエ作品で、キリスト教より以前の古代宗教がテーマとなっています。一つの季節、時代が終わる時には必ず犠牲が伴うという考えのもと、物語には変化する大地や、部族間の対立が重ねて描かれ、その大地の怒りや人間同士の争いを鎮めるために一人の若い乙女を生贄として神に差し出すという設定の作品です。「2部構成の作品で、ストラヴィンスキーは第1部を書いてからしばらく曲を書き進むことができなったといいます。その時に日本の和歌と出会い、音楽の中でも和歌のように風景の遠近感のようなものや空気感の移り変わりのようなものを表現できるのではないかということをストラヴィンスキーは発見し、第2部を作曲しはじめたという流れがあります。こういった曲の背景をふまえながら、とにかく音楽を聴きこんで、物語にも、音の一音一音に対しても、なるべく原作のアイデアに忠実に振付しました」と山田さん。
多様なリズムと複雑な和音の一音、一音にピッタリと寄り添うような振付により、まるで音楽より前にダンスがあったかのようにさえ感じるダイナミックかつ繊細な群舞。山田さんが作品に込めたメッセージは「すべての生命はとてもはかなくて、とてもたくましいという姿」。観る者に息つく暇が与えられないほど、次から次に展開される表現の渦、静と動の共存……。総毛立つ、圧巻的な凄さを見せつけてくれました。「ダンサーたちは1部と2部の間にある私のソロの時だけ舞台からはけることができるんですが、その時に酸素を吸引して心肺機能を整えます。でないと最後まで乗り切ることができない、とてもハードな作品です」。3年前の初演から踊りこむ毎に聴こえる音が増え、踊り方も増え、どんどん濃密な舞台へと変化を遂げていったというこの『春の祭典』。山田さんは不協和音で調和を取ることを目指していき、ダンサーたちはそれに応えていきました。「今回はかなり完成度が高かったと思います。いわば全員がソリストのようなアンサンブルになっていました」と山田さんは本公演を振り返りました。
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ダンス公演「春の祭典」より
ダンス公演「春の祭典」より
ダンス公演「春の祭典」より
ダンス公演「春の祭典」より
すべての命はとてもはかなくて、とてもたくましい
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「Co. 山田うん」と当ホールは今年で11年目という長いお付き合いがあり、開館10周年の際にも公演をおこなってくださいました。最後に当ホールにいただいた山田さんからのメッセージをお届けします。
「『えずこホール』での活動のほとんどは出張授業という形で、幼稚園や保育園、小学校、中学校、高校、専門学校、障がいのある方の施設や高齢者施設などに出向いてダンスのワークショップを行い続けています。出張授業では、私自身も毎回新しい発見が得られます。それは舞台とまったく同じ。舞台には必ず失敗と発見がつきものなんですが、ワークショップでも必ずすべてがうまくいくわけではなくて、自分が愚かだったなとか、とても弱いなということを感じる瞬間もあれば、子どもたちやお年寄りの方とお会いすることで素晴らしい発見があったり。いろんな感情が毎回カラフルに起こる、そういった経験をさせていただきました。
ここ2、3年は劇場に足を運んでくださる方に対してもう一歩踏み込むためのアウトリーチというか、新しい芽を開いてもらうチャンスにもっと貢献したいと思って、出張授業はダンサーたちが中心となり、私自身はこの『春の祭典』に集中して取り組んできました。この思い入れの深い作品を『えずこホールで』で、しかも20周年という記念すべき年に上演できたということは自分にとってありがたい流れであり、とても嬉しく思います」。
(文:木下貴子) -
公演後の山田さんにお話を伺う